s13y

独身27歳の中卒ニートが人生に危機感を覚えながら書くブログ

ラブホでスタックした男女を助けた

困った時はお互い様

ある冬の晴れた日。私はNとドライブをしていた。 

Nの初登場は以下。時系列はこれよりも一年後となる。

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Nとは定時制高校時代の学友である。既に就職して学校を辞めた後でもこうして付き合いがあった。別にどこへ行こうと決めた訳ではないが、ぶらりと当てもなく車を走らせていた。

ホテル通り

地元の人たちの間では有名なホテル街の通りがある。その道を逸れると遠回りになってしまう。田舎なもので他に道はなく、遠回りをすれば20分は変わる。どうしても通らなくてはならない。我々は何も思わないが、付き合いたての初々しいカップルや家族連れは避けたい道であった。実際に気まずい雰囲気になったカップルを後部座席に乗せたことがあるので、その場合には通らないように進路を変えている。

不審な車

さて、その通りを抜けて街へ向かおうと走らせていると車が一台止まっていた。ホテル駐車場の出入り口で斜めに横を向いて止まっていた。普通に停止していたなら、入るかどうか決めあぐねていると思っただろう。そんなことはない。あれはきっとスタックだ。急な斜面を下り、ホテル駐車場へと入る。除雪が行き届いていない場合、下りは何とかなっても上りは難しい。時刻は夕方。サービスタイムで入ったなら今がまさに出てくる時間帯だろう。

一度、素通りした。そしてブレーキを掛けて停車する。Nがどうしたと聞くのでミラーを指差す。若い男女が車から降りてきた。参ったなという感じで立ち竦み始めた。そこまで確認して車をUターンさせることに決めた。

状況観察

自分たちの前に車が来たことを確認すると運転手だった男性が走り寄ってきた。窓を開けてどうしたのか聞く。私とNを見て「げ」という顔をしたが利用する訳ではないので安心して頂こう。車がハマってしまって動けないという。救助サービスを利用するのが一番手取り早いのだが、暫く待っていると誰かが助けてくれたりする。サービス料金もバカにならないので私たちが手伝う旨を伝えた。男性は顔を輝かせて喜んだ。

窓を閉め、車を邪魔にならない場所へと移動させることにした。男性と女性が出てきた場所からNが不埒な想像をする。我々は若い男女と称したが予想する年齢ほど若くは見えなかった。ということは見える年齢が本当の歳かも知れない。何れにせよ歳上の方々である。失礼のないよう、私はNに気合いを注入した。

あまり一般受けしない外見の車からいかにもな風貌の男たちが出てきて、彼女の方は少し不安そうだった。挨拶をして軽く会話をすると安心したようで「出来ることがあれば教えて欲しい」と言った。

救出作戦

真横に近い形でなければバックさせる手段を選んだが、状況はそれを許さない。道幅が狭いのだ。仮に動いたとしても直ぐにハンドルを切らなければならない。ハンドルを切れば推進力を無くして再び埋まるだろう。運転手はハマりそうだと予感した段階でハンドルを切り、蛇行して上ろうと考えたようだ。

坂が急なのでそう考えるのも無理はない。しかし残念ながらそれでは自ら埋まったようなものだ。ハマりそうだと感じた時点で既に終わっていることも多く、止まれば終了だ。やりそうな気がしたら出せる限界の速力で突っ込むか、諦めるしかない。

駆動方式の違い

とは言ったものの、私は後輪駆動の車を好んで乗る。四輪駆動であればスイスイ行けたりもするから羨ましく思うこともある。スタックする回数はそれなりに多くて苦労した。その度に誰かに助けられ「いつかは私も」と思うのだ。

後輪駆動と言えど、技術がつけば問題ない。様々な状況に応じて対応出来るよう運転を変えたり、スタックした場合を考えて道具も揃えている。深夜のド田舎でハマれば助けは来ない。朝まで待つために車の中で待機していたが、排気ガスが正常に排出されず中毒で亡くなってしまった方も知っている。よほどのことがない限り、同じような過ちを繰り返さなくなったが用心しておくに越したことはない。

スタックしてしまった場合の運転操作は慎重に

運転席に女性を乗せ、運転操作をお願いする。後退を試みるがやはりダメだった。車は前輪駆動で、タイヤを回転させる度に重さのあるフロントからずり落ちていく。これで真横に近い形になったのだろう。このままズリズリとターンテーブルのように回転すれば縦に戻ると考えるかも知れないがそうはいかない。

除雪が行き届いておらず、自動車の底が付いてしまっていた。これ以上の進展は見込めない。微妙な力加減でのアクセルワークが難しいようで、タイヤの回転数が早い。これではどんどん埋まってしまう。

男性に代わってもらい、私とNで掘り起こしたり押したり押し付けたり揺すったりあれこれやってみる。どうにもこうにも無理だ。かくなる上はロープで引っ張り上げるかと車に戻りトランクを開けた。

無力

車の下に入り込んだ雪の量でロープを括りつけるのも大変だったが何とかなった。下手をすると私の車までハマり兼ねない位置取りだ。慎重にかつ大胆に自動車を操り、私の車と結びつけた。結果としては全くもって意味をなさなかった。

冷静に考えればわかることだが、後輪駆動である。加えるなら相手は真横に近い形でそっぽを向いている。拗ねた相手をこちらに向かせるのは相当な努力が必要だ。トルクオーバーでタイヤが空転する。路面に接地しないのだ。食いつかないタイヤでは本来の馬力が出せない。

なればと少し助走をつけてはいけない。ロープか車の接続部を破壊する恐れがある。今回は横向きであることから、ロープのバンパーへの当たりがあった。仮にコツコツと衝撃を与えたくても破損させる恐れがあった。

裏の手

男女はすっかり諦め切っていた。私は必ず救い出せる手段がもう一つだけあると伝えた。

車で車を押すのだ。

これはリスクが多い。運転操作を誤ると凹ませる可能性があるし、救出が叶っても相応の傷が付くだろう。二人は少し考えて、それでもいいからやって欲しいと言った。私が良ければ。

正直、カップルの車より私の車の方が車格は上だ。この時期は給料の殆どを車に掛けていた。私が貧乏になるのは他の話で書いている。それはもう少し先の話で、転勤が絡んで来る時期だ。

トランクからクッションを取り出してNに渡す。少し小突いて現状スタックしている場所からズラすことが出来れば良い。車を慎重に寄せる。新しい車は衝撃吸収を目的として脆く作られているのでこの方法はオススメできない。私の車は規制前の自動車なので頑丈だ。接触させる位置をドアにするのもオススメ出来ない。薄い鉄板が一枚あるだけと考えて間違いない。そこを添えた日にはベッコリと凹むだろう。

接触箇所として選んだのは後輪タイヤ。基本的にボディに触れるのは危険だ。知り合い同士ならばバンパーを押しても構わないと思うが赤の他人である。

信頼関係

ゆっくりとフロントを後輪タイヤ付近へ進める。ライト類が当たることにならないよう空間把握が必要だ。Nが静かに誘導する。接触手前でストップが掛かりブレーキ。この作業はお互いの信頼関係が無いと難しい。タイミングが命だ。クッションを後輪タイヤをメインに据えて挟み、私もそれを確認する。改めてどうするかをNに伝え、どういう場合に合図を出すか取り決める。

脱出

押し出しはクリープ現象で十分だ。坂が味方するので車重で車は進む。底が雪上についている車は重さを感じさせない。抵抗が出るまで押す。Nが合図を出す前に私から任務完了を告げた。

車を少しバックさせて、ホテルの駐車場へイン。邪魔にならない所へ停めてから現場に戻る。あとはバックするのみで、簡単に抜け出せた。

道を一生懸命に平すと、それは普通の除雪と変わりない。利用してもいないホテルへの奉仕活動。一体何をやっているのだろう。

お礼

今更気づいたのか、ここはカップル向けのファッションホテルである。ホッとしてハタと気付いた女性が凄く恥ずかしそうに話していたのが印象的だった。男性をバンバン叩いて羞恥を紛らわしている。意外と彼女の年齢は若いのかも知れない。幸いなことで車に傷は付かなかった。私の車は古いから気にしないでくれとバンパーを持ち上げて嵌めるように少しズレた箇所を補修した。私は壊れても自分で治せるが、男女の場合そうもいかないだろう。

帰りがけ、お礼だと言ってお金を渡そうとしてきた。Nと顔を見合わせてから受け取れないと断った。お金が目的で助けたのではないというと、失礼なことをしたと謝罪された。その気持ちが嬉しいことを素直に話す。男性は深く頭を下げ、女性はまた彼を叩いた。仲が大変よろしいようで。

男女を見送り、私たちも車へ戻る。良いことをすると気持ちが良いものだとNがいう。自分の言ったことにふと考え、そしてまた不埒な想像を始める。

ニヒルな笑みを浮かべるNに気合いを注入した。