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独身27歳の中卒ニートが人生に危機感を覚えながら書くブログ

お魚弁当を食べていたら後輩が疑われた

職場での一幕

私が務めた会社には様々な人がいた。今回はその一部の物語。

アルバイトの祭典

職場では様々な企業と提携して特定商品の販売を行っている。その日は沢山の企業が入れ替わる形で説明会があった。通常業務に支障が出る為、説明会への参加は限られた人数で執り行うことが決められ、人数補填としてその日は多くのアルバイトが出勤することとなった。職場はいつもの殺伐とした雰囲気とは打って変わり賑わいをましていた。

下克上蔓延る戦乱の世

これはアルバイトにとってのある種のお祭りだ。私たち社員の者は皆、事務所とは別室にこもり、休憩時間以外は外に出てこない。となればアルバイトたちは好き勝手にできるのだ。こういう時に本来は同じ立場であるアルバイトたちの中で上下関係が生まれやすい。先輩後輩というのも勿論あるのだが仕事の捌き方でランクが変わったりする。

普段は活躍していなかった学生アルバイトが責任感に芽生え、指示を始めたという例もあった。どちらかと言えば控えめで自分からは意見を言わないタイプがだ。正社員が居ないということで羽を伸ばせると考える者、助けがない状態で業務を熟せるか不安な者、これらの人間を上手く取り纏め、今日という一日を如何に乗り越えるかと考える者など様々だ。

個人の成長を促す催しのようなもの

こういった中で時に大きな成長を遂げる者が現れる。上層部や現場の我々もこの手の機会は必要であると考えており、不定期ではあるが説明会の日取りを一日に凝縮して行うことにしていた。

正社員の数よりアルバイトの数が圧倒的に多く、その数は全体にして数倍に膨らむ。深夜滞には正社員は居らず、一部信用している方だけ現場の責任を預けたりすることもある。夜は賃金が高く手当ても厚い。しかし学生のアルバイトも入り激戦区である。こういう機会で活躍した人は自然と待遇もよくなっていく。描く想いは様々だが、利用したい者は喉から手が出るほど待ち望む日だろう。

会社の業務内容

私たち社員はアルバイトの方を集め、その日の業務連絡を行った。主な事業内容を大別すると四つあり、それぞれで求められる能力が違う。今回の話ではレンタカーに関する業務が関わってくるだろう。その他の事業内容に関しても別の話で触れていきたい。

時間帯により15分単位で予約されたお客様が入り乱れる。会社側の方針で大手のフランチャイズを利用する集客方法に切り替えてからは鬼のように忙しく猫の手も借りたい状態となった。それはコンビニの経営やレンタカー、洗車専門場所によっては全く別の職種が店舗に入ってることも珍しくない。それでいて儲けはジリ貧だ。状況を知る各業界の方々には褒められても、同業者からは手当たり次第で品のないやり方だと疎まれ、器用貧乏とよく謗られたものだった。

アルバイトと社員

 

アルバイトの方々には最終的に正社員がやる殆どの事を任される。全て出来るようになった上で、責任者が保持する業績を越えられたものが正式に雇用される。だが私たちの忙しさを知っており、誰も本気で目指したりはしない。アルバイトの方々はよくブラック企業だといい、仕事先が見つからなくてもうちには就職したくないと言っていた。アルバイトでいる分には給料が高い。私たちが貰う給与よりも多くなることがあるのだからやり切れない。

もちろん各種保険や保証、待遇の違いやボーナスなどの支給を比べると単純に比較は出来ないが、私でもたまにアルバイトで良かったかもと後悔する。非常に長い時間を拘束され、半年以上休みが無かったという上司まで居たほどだ。アルバイトの指摘は紛れもない事実で、ブラックの前に超絶がつくほどであった。訴えられた経験が幾度かあるので、まさにお墨付きである。黒い噂も絶えない。上層部は黒一色であることを誇りにでも思っているのだろうか。現場に対する業務の改善は見られない。こちらの意見など一切聞かないのは上層部の上層部があったからだと書き添えておく。

頼りになるのは我々を支えるアルバイト達であった。本当に優れた人たちが多く居た。一生仕事を共にしたいと思える者も沢山居た。実績だけでのし上がった短期勤務の正社員よりも勤務歴が長い方も多く、頭の上がらない所はとことん上がらない。そういった優秀な人材を手放さないよう賃金の待遇も良かったのだと思う。反対に釣った魚には餌を与えない。我々の事である。

本日の業務を必死にメモするアルバイト達を励まし業務連絡とした。

Sくんの登場

Sくんは私の転勤と同時期に入っていたアルバイトであり後輩だ。遠方から学業の関係で都心へ越してきた青年で、就職先が見つからずうちへやってきた。一人暮らしで家に仕送りもしているのだから同年代とは思えない。私にも借金がなければ出来たのだろうか。

如何に貧乏であったかはこちらのカタリゴトで。

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SくんとUは同年代でとても真面目で誠実な好青年であるのに対し、猿並みのといえば猿に失礼なUが社員で、なぜSくんではないのかとよく論争のタネになった。それほど正反対で余計に光り輝いて見えたのだ。熊のようにデカイUが本格的にホームレスになる前段階で家に帰らず風呂にも入らない日々が続いたことがある。もはやケダモノ以外の何物でもなかった。

▼Uの初登場▼

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Sくんは容姿端麗でお洒落なイケメンさんだ。顔が小さいというのはそれだけで整って見える要因にもなるが、それを更に際立たせるのが髪型であり、TPOをわきまえた上で身に着けるちょっと小洒落たファッションセンスがSくんをSくんたらしめる。身の振り方も紳士的でパートのおばさまからの人気が高い。

女神様と好青年のSくん、そして醜悪なU

岩石のようなごつごつした顔面に特農ソースをかけてメガネを添えたらUになる。ぼさぼさの髪型で身だしなみなんて興味もない。Sくんを際立たせる為のモブだ。

いつの日か暑くて上半身裸になったUをみてアルバイトのお姉さんがメガネを外して髪を上げろと言った。それを言ったらSくんもそうなのだが、彼女はモデル雑誌に居てもおかしくはない容姿をしている。うちでアルバイトをするより適した職があったはずだ。結婚式の姿などその美しさにやられ、尊ささえ感じた。以来、N様と様付けで呼ばせてもらっている。その彼女が言うにはUは整った顔立ちであるという。

確かにSくんとは比べるまでもないが、Uは外国人のような彫りの深さがある。それが災いして小汚い格好になると恐ろしく中年のそれに近くなってしまうのだ。鬼を意識した衣装を着せたなら似合うだろう。人間の着る衣服を纏うから変なのだ。そういうとN様は笑う。

休憩時間

休憩時間になると近隣にあるコンビニへ出掛ける。上司は喫煙者であるので敷地内禁煙を疎ましいと言うが、次の行動としては慎ましく喫煙所のあるコンビニへ向かう。その姿に肩身の狭さを感じずにはいられない。事務所に行くと全員出払っており、店内に行けばパートのおばさまだけであった。Uがナンパするようにおばさまと話すが業務の邪魔をするなと一喝して連れ出した。Uも喫煙者であるので一緒にコンビニへ向かう。私は飲み物を買う為だ。

向かう途中でSくんとすれ違った。深々と礼をして見送る姿は「そこまでしなくていいんだよ」と諭したくなる。天狗のように闊歩するUにあの礼儀正しいSくんの爪の垢を飲ませたい。SくんにはUの爪の垢、は汚すぎるので少しだけ真似をしてもいいと思う。

無線報告

敷地内はそこまで広くないのだが、同じ店舗内で事業内容が違う為にインカムを使用して各エリアとやり取りを行なっている。全員が各エリアで同じことをできるように教育しなければならないが得意不得意はあることと、教育の時間が割けない為に任せる場所は勤続と共に変わっていく。例えばパートのおばさまに力仕事は難しいのでUを馬車馬のようにこき使う。Uには接客はさせたくないのでSくんやN様に任せるのだ。自分に出来ることから始め、最終的にはどこにでもサポートに回れるよう指導を行う。

一つの事業内容を行なっていると中々その場から動くことは出来ない。各エリアからの報告を休憩時間内に受けるのが慣例だ。どのエリアも問題はない。昼になるにつれてアルバイトが増員され負担も軽くなっていくだろう。

弁当の支給

各企業担当の者は事前に電話を寄越し、何が食べたいか希望を募る。それぞれの企業が競い合うように様々な食べ物を持ってくる。これは我々の忙しさを知って説明を受けながらでも食べられるようにという心遣いだ。だらしがないと思われるかも知れないが、食事休憩などあってないようなものだ。食事中に担当するお客様が来たのなら接待に行かねばならない。それが終わる頃には別の仕事が入る。従って、沸かしたお湯をカップ麺に入れたところで休憩時間は終わっている。

各企業の担当の方はなるべく被らないように弁当やお菓子、果物や飲料などを差し入れる。大体三つ目以降の説明を受けるときはもう満腹であるのでその殆どはアルバイトへと流れていく。この日に出勤を望むものはこれを目当てにする人もいた。しかし私の境遇を知る者から遠慮がちとなる。「頂いても良いか?」という確認を上司にするのではなく私にするのである。それを見た者は気になり私を知る。そして供物を捧げるが如く私に奉納してくるのだ。有難い話ではあるが余ってしまい腐らせるのは忍びないので再び私が配って回ることになる。

1日の終わり

精算業務は社員が行う。これをアルバイトが始めると上司は遂にやることがなくなってしまうだろう。全体の運営指揮は実質、私たち平社員が任される。役職こそないものの、役職的には副が付く店長だ。それに至るまでの主任やチーフなどは関係がない。昔はあったようだが、上司と部下で分かりやすく統一されている。では店長に例える上司は何をするのかと言えばお偉いさんの会議に出るのが仕事である。上司は何度も胃に穴を開けて帰ってくるのが通例だ。

説明会が終われば私とUの本日の勤務は終わったも同然だ。しかし上司が居る為に帰るわけにもいかない。であれば事務所の隅に作られた休憩室で暖をとる。今の季節は冬。とても寒いのでサービス残業で外になんか出たくない。上司がたまに「パソコンの入力がわからない」と私を呼ぶ声がする気もするが完全にダンマリを決め込んだ。

Uはいつになってもパソコン業務が覚えられない上司を小馬鹿にしたように仕事を手伝っていた。Sくんは外で水仕事をしている。こういうと怪しげだが、本当に水仕事であるので弁解のしようもない。N様は店内でパートのおばさまと話しているが、そろそろ二人とも退勤の時間だろう。

夜の店

夕方から夜にかけては店の雰囲気もガラリと変わる。私たち正社員は居るもののアルバイト勢は総入れ替えが行われ、昼の業務も20時には終了となる。学生のバイト戦士たちが出勤してくる時間帯は17時以降だ。それに伴って業務内容も受けが中心となる。仕事の内容としては昼間に散々盛り込んだレンタカー業務の後片付けだ。次から次へと帰ってくるお客様をちぎってはなげちぎってはなげと俊敏にかつ丁寧に行う必要がある。夕方の学生アルバイトたちは私たち正社員とも昼間のアルバイトやパートとも少し違う。言うなれば裏方の人たちであった。

帰ってきたレンタカーの洗車はもちろん、翌日の予約を確認して車両の準備と書類作成が行われる。数は少ないがレンタカーの送り出しも多少は含まれる。たどたどしい接客でも一生懸命に頑張る姿は活力を得られる。

レンタカーの台数

出発準備に追われる中、狭い敷地内でレンタカーを上手く整理していかなければパンクしてしまう。その数は数百台。最初は自転車の貸し出しから始まり、自動車に切り替えてからは数台を所有していたのだが、業績の好調と共にその数は膨らんだ。敷地内での管理はどうにも難しく、近隣の大型月極駐車場を二件契約しており、それでも苦しい場合は他にレンタカー業務を行っている店舗への預かりをお願いしていた。

敷地内で保有する為に設けられている駐車場に置ける台数はせいぜい9台だ。ミラーを折りたたみ、それでもミラー同士の隙間は数センチしかないほどぎゅうぎゅう詰めにしてやっとである。運転手はトランクや窓から直接出るというトリッキーな降車を余儀なくされる。それも後退で停めねばならないので駐車出来る技術を持つ人は限られるというおまけ付きだ。

よって通常は一時間置きに月極駐車場へ行かなければならないが、店舗の周りに散らばせておくことで繁忙時の対応が可能となる。上層部から「邪魔になるのでなるべく取りに行くように」と指示を受けるが知ったことではない。非常に劣悪な環境下である。

名物の全力疾走

基本的に出発時間と照らし合わせて車を用意して置くのだが、飛び込みで来られる方も居る。その場合は誰かが出発時の説明を店舗で行っているうちに、他の誰が駐車場まで車を取りに行くかで争うことになる。そういう時に限って僅かに手が空いていたりするのだからタイミングってヤツはどうにも好きになれない。それぞれのインカムに「お手すきの方は〇〇号車をお願いします」と無線が入った瞬間にピリッと空気が痺れ、お互いを目で牽制し合うことになるのはいつものことだ。

すかさず「Uが空いてます」と言いたいところだが、彼に行かせるのは危険だ。トロトロ歩いて行ったせいでお客様を待たせてしまったことがある。これも止む無しかと半ば諦めているのが社員の中でも若手の私。インカムの発信ボタンに親指を触れさせるその刹那。「ザザッ」とノイズが入り、救いの手が差し伸べられる。

我らがアイドルSくんだ。彼はやっぱりカッコいい。イケメンである。事あるごとに彼を頼るがSくんはいつも真面目で嫌な顔一つしない。決まって「大丈夫です、自分が行きますから・・・!」と私と作業していたSくんは言い残し、颯爽とその場を立ち去るのだ。やがて「行きます!」と事務員からバトンの如く鍵を受け取ったSくんが翔けるように店舗から飛び出していく。部活は陸上部だったようで、足がめちゃくちゃ速い。最初は何分で戻ってこれるか計算していたが途中の信号に捕まらなければカップ麺が出来上がる前に帰ってくるのだ。因みにUは10分経っても帰ってこなかった。近くのコンビニでタバコでも吸っているのではないかというのがその後の見解だ。Uは駐車場から出るときに詰まってる車があって、信号にも捕まり、車道を歩くおばあさんが居たから遅れましたと弁解したがどれほど真実か怪しいものだ。制服がどうにも臭う。臭うぞ。

平和な事務所

話がだいぶ逸れてしまったが、Sくんが水仕事をしているというのは車を洗っていたからだ。この寒い時期に手を真っ赤にさせて頑張っていることだろう。私はぬくぬくと温まり、説明会で頂いた弁当を開けることにした。今晩の夕食だ。割り箸をパキッと折ると先輩が休憩室にやってきた。「お、いいね。もしかしてそれが今日の夕飯かい?」と聞いてくるので「そうです」と答えると「今度飯行こう」と誘われた。当然奢りでお願いした。

先輩はまだ仕事があるようでお客様からの差し入れをテーブルの上に乗せて「食べたかったら食べていいから」とデザートの入った袋を置いて出て行った。休憩室とはいうものの、元々キッチンがあった場所にテーブルを置いて、事務所に使ってる場所を無理やり仕切りで隔てた空間である。最初は一つの部屋だったのだ。なので先輩と上司が話している声も聞こえる。

さて弁当の中身はといえばそこそこ高そうなお魚弁当であった。食事をしていると先輩の「どうしたんだいSくん」の声が聞こえる。気になった私は箸を置いて覗き見てみることにした。

そこには濡れ鼠のSくんがいた。上司は「床が濡れるから拭いてからこい!」と一喝しているがSくんは「さ、さ、さ、寒くて・・・」と寒がる演技する。この言葉の初めを繰り返すのはSくんのお家芸のようなものだ。イケメンではあるが、仕事以外ではとても可愛い一面もあり、その喋り方は独特だ。何か言いたいことがあると「き、聞いてくださいよぉ!」と大げさにアピールする。今もそうだ。

「Uさんが洗剤入れるからって洗車機の蓋を開けたんです!」とSくんは言うが先輩に「洗浄機な」と訂正される。「せ、洗浄機の蓋!」と治すも「カバーだよ」と先輩に再度訂正された。「細かいですね」とSくんが口を尖らせると先輩は「後輩に教えるようになったらわかる」と返してタオルを差し出した。

頭をわしわし拭きだしたSくんが上司に促される。「はあ!忘れてました!Uさんがですね!」とSくんが再び詰め寄るところで私は飽きて「あいつまた壊したな」と結論をつけて弁当を食べることにした。先輩が工具を持って事務所から出て行ったのを確認したし、間違いないだろう。

事情を説明し終えたSくんは「誰か居るんですか?」と休憩室に入ってきた。「やぁ濡れてるね」と返すと「そうなんです!Uさんが」と言い出したので「聞いた」と制した。Sくんは私が食べてる弁当を覗き見て「いいですねぇ美味しそうですねぇ」とよだれをじゅるっとすする真似をする。お茶目だ。

Sくんは「ひどいですよー」と一人でぷりぷりしながら上着を椅子にかけて座った。そして靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ始めた。「びしょびしょです」と聞いてもいない状況を説明してくる。正直Sくんじゃなければ「飯食ってるから更衣室でやれ」と言うだろうし、これがUであるなら「死ね」と言っていたかも知れない。Sくんが気づいて「あ、ごめんなさいお食事中に」と言った。おせーよ。だが許せる。靴下を片っぽずつ両手で持ち、休憩室から出て行った。

先ほどSくんから事情を聞いて飛び出して行った上司が戻ってくると「Sくんこれさ」と話しかけているのが聞こえた。Sくんは一度更衣室に出掛けたようだが、また事務所へ戻って来きていた。職場の更衣室は事務所と少し離れた場所にある。

私は気になったので再び覗き見ると暖房機の上に靴下が乗っかっていることに気づく。Sくんは「乾かしてます!」と自慢気に言うが上司はもっと他に方法があるのではないかと渋い顔をしている。あれでは乾かずに温まるだけだろうな。

N様とパートのおばさまが事務所に入ってきた。飛び込みのお客様の対応をしており、15分ほど残業をしたようだった。入ってくるなり咎められているSくんを見て二人が何事かと事情を聞きだしたところで私は休憩室へと引っ込んだ。

やがてN様が「なんか生臭い」と言い出す。私は少しニヤっとした。

Sくんの「え」という小さな声が聞こえた。N様が「こーれーかあ?」と声を上げるとSくんが慌てた声で弁解を開始した「ち、ち、ち、違います!これはUさんにですね」と聞こえたところで「終わりましたー」と先輩が事務所に入ってきたようだった。

「あぁ、お疲れ様」という上司の声と被さるように「先輩!助かりましたぁ」とSくんは安堵の声を出す。「どうしたの?」とN様。先輩はついでとばかりに上司に事後報告を始めた。のだが、どうしてもソレから発せられていると思うと我慢がならなかったようで「とりあえずソレどっかやって」とN様はSくんに心底嫌そうな声で言った。先輩の「ん?」という声が聞こえる。

N様が「Sくんの靴下が生臭いっ」と荒い声で鋭く指摘する。Sくんが「ち、ち、違います!これはですね」と言いかけて先輩に「あぁ、この臭いか」と言われて遂に「ひぃええ」と奇声をあげた。おっと残念なイケメンになってきたな。

暫くN様とSくんが言い合いをしているのを私はスマフォを弄りつつも笑いを堪えながら聞いていた。スッと顔をだした先輩がニヤニヤして私にジェスチャーする。

ニオイコレ、ジムショ、ネタバレマダ、ダマッテテ。

ゴミ箱、事務所の順で指をさし、バッテンを作ったり口の前でパッパッと手をグーパーさせ、人差し指を立てて口に当てたり手で制したりして私に伝えてくる。うわ、わっるいひと。さっと戻って行った先輩を見送ると絶妙なタイミングでUも入ってきたらしい。「うわ人口密度たか!てか生臭っ」と開口一番に口にした。Sくんが「あ、あ、あ、ちが」まで言ったところで上司がUを一喝した。この説教は長いぞ。Sくんは遂に参ってしまったようで「ご、誤解ですぅ!」と叫びながら休憩室に走ってきた。

入ってくるなり「説明してください!」と私の袖を引っ張るので急いで弁当の魚を口に放り込んで咀嚼する。「あ、あぁ」と私に手を伸ばしながらぶるぶるさせている。N様が「Sくん!靴下!」と言いながら入って来ると私を見て「居たのー」と猫なで声をあげる。口一杯に弁当を頬張る私をハムスターか何かと勘違いしたかのようにわしゃわしゃと頭を撫でてきた。

Sくんは床に膝をついてがっくりとうなだれている。唯一事情の知る私が敵であったと悟ったのだろう。N様がすんすんと私の近くで鼻を鳴らす。美しいご尊顔でジッと私を見るので目が泳いだ。

ちらりというようにSくんを見下ろしてボソリと「生臭い」と漏らす。Sくんがバッと顔を上げ、神様を祈るように手を組んで前後に揺らし身の潔白を証明しようとする。

 

私は「靴下じゃね」と答えて白飯に箸をつけた。

 

全て悟ったはずのN様が「Sくーん!」とまだ続け、聞き耳を立てていた先輩が裏でぎゃーぎゃー笑っているのが聞こえた。